ジャケットには白いギターをまるで母がくれたぬいぐるみを抱くようにかかえた少女が立っている。
　どこか遠い空を眺めるように。その目には、どこか遠い星がみえているのか、その空に追憶を重ね写しているのか、わからない。しかし、この少女は後戻りはしないということは何故かわかる。その立っている姿には、前に進むだけしかできない決意と意地がある。
藤圭子の記念すべき１ｓｔLPにして最高傑作。日本歌謡界の金字塔、「新宿の女」。このアルバムに収められている、その普遍的な、音楽、世に「傑作」と呼ばれるLPに必ず存在する「気迫」や、その時代、その人が、ある人とという時間的な背景の合致、それはまれに起こり得る事、一般に「奇跡」と呼ばれる空気、それらがきらきらと溢れ出している。
　エレジー（哀歌）中心のこのLPだが、藤の凛としたたたずまいが湿っぽくせず、生命感にあふれている。バックのアレンジも今の時代には聞くことのない「楽器の音」が生きている。演奏する者の気配までもが記録されているような録音。楽器が響いているのがわかる、ぬくもりある演奏で藤をサポートしている。
　「ばかだなあ…」とつぶやいて始まり、「命ぎりぎり、燃やして死ぬのさ」と声高らかに歌いあげ、きらめく一番星のようにギターのハーモニクスが鳴り響いてこのLPは幕を閉じる。ジャケットの少女が見ている空に一筋のささやかな、流れ星がきらめいたように。

「新宿の女　演歌の星　藤圭子のすべて」 RCA　＃JRS-７０６７ １９７０．０３　発売